慈善団体への寄付を装うフェイスブック詐欺

慈善団体への寄付を装うフェイスブック詐欺

フェイスブック や LinkIn などの実名SNSなんだから悪いことをしても、一発で身元が割れるはず。だから詐欺なんてないでしょ! と思い込んでいませんか? 実名SNSという安心感を逆手に取った詐欺があるのです。実体験をもとにフェイスブック詐欺の手口を紹介し、詐欺に遭わないようにする手立てを提案します。

Tamiko Mari ダブリン

Tamiko Mari さんから友達申請を受け承認したのは、2023年11月初めです。
Tamikoさんのプロフィールは日本語で書かれていました。
水戸市出身。アイルランドのダブリン在住。引退したテキスタイルデザイナー。

フェイスブックでは友達になると、相手と二人だけでダイレクトにメッセージが交わせるようになります。
Tamikoさんはこの機能を使って、丁寧な日本語で挨拶してきたので、筆者も返しました。そうやって二人のやり取りは始まりました。
最初は、当たり障りのない話でしたが、やがて、Tamikoさんは身の上話をするようになりました。それによると、

Tamikoさんは80歳を過ぎで、咽頭がんを患い、がん末期。
亡夫の遺産も合わせ2070万ポンドの資産をアイルランドの証券会社に預けているが、死ぬ前に慈善団体に寄付したい。
でも、子どもがいないので、病床にある自分を助けてほしい。

深く付き合ったことのない筆者に高額な遺産管理を手伝わせるのは、どう見ても不自然です。
でも、一方でこうも考えました。
この人は孤独で、人生の最後に日本とのつながりを取り戻したいのかな。
それで筆者は次のように返事をしました。

筆者 11月9日

タミコさん

咽頭がんとのこと、お気の毒です。
どうか、心穏やかにあられますように。

大切な資金を慈善団体に寄付するために、お手伝いに指名していただき、大変光栄に思います。ありがとうございます。
ただ、そんな大役を私に果たせるか自信がありません。
もう少し、状況を詳しく教えていただけませんか?

送り先の慈善団体は、すでに決まっていますか?
決まっているのであれば、その慈善団体の資金管理部門にご相談されてはいかがでしょうか?
決まっていないのであれば、まず送り先を探し、担当者にご相談されるのがベストだと思います。

我ながら、What a good idea! と思ったのですが、Tamikoさんは、それには触れず、次のように返してきました。

Tamiko 11月9日

・・・略・・・すべて合法であり、資金は私と亡き夫のものであるため、誠実に出席していただきたいと思います。 私がしてほしいのは、お金を受け取るのを手伝って、私の名前で寄付することだけです。私は現在入院中で、自分では何もできないので、このお金を直接寄付することはできません。

どうやって引っ越して慈善団体に送金するのか本当に分からないので、自分の信念を試してランダムに連絡しました。私はここセントジェームス病院で治療を受けています。 住所: James Street, Dublin 8, Ireland, D08 NHY1, Private Cancer Ward 1. 私一人では何もできないので、助けてほしいです 亡き夫の家族のせいで、身近な人をあまり信頼できません ・・・

相手の質問には答えず、聞いてもいないことを先回りするように応える態度に、かえって不信感を感じました。

そこでGoogle検索したら、出てきました!
Tamikoさんも出てきましたが、ほかの名前もあり、オーストラリアだったり、カナダだったりとバリエーションがあるのがわかりました。でも、「海外在住」「日本語が書けるがん末期の高齢者」「咽頭がん」は共通でした。おそらく、メッセージのやり取りはできるが、実際に会ったり、電話したりはダメというサインなのでしょう。

Tamikoさんの話は、筆者が聞いている話とまったく同じでした。
無論、先輩も、2000万ポンドの寄付のお手伝いには疑問を持ち、
「弁護士を雇うべきでは?」
と返したそうです。その答えは、
「弁護士は信用できない」
だそうです。

Facebook navi

なるほど。ほかの人は信用できない、あなただけが頼り・・・という話の流れを決め打ちしていたから、「送り先の慈善団体に手伝ってもらう」という直球は打ち返せなかったのでした。
ともあれ、自分は病床にあるから、慈善団体に寄付するのを手伝ってほしいというTamikoさんの訴えそのものは、違法行為ではありません。
わからないのは、Tamikoさんのほんとうの狙いです。
実際に、筆者はまだ何の被害も受けていませんから。

筆者は、やたらに疑うのではなく、まず、会話を時系列に採取し、読み直すようにしました。そのほうが矛盾に気づけるからです。
そしてもう一度、訊いてみました。

筆者 11月10日

タミコさんが寄付したいと思う慈善団体どこでしょうか?

翌11月11日午前9:30頃フェイスブックにログインすると、Tamikoさんから次のような返信が来ていました。

Tamiko 11月10日

・・・このお金は、私と亡き夫がアイルランドのダブリンにある警備会社の金属製の箱に入れて預けたものです。お金は、入金されたのと同じ方法でのみ配送されます

このお金は、この寄付を完了するために必要なすべての法的および必要な書類とともに、金属製の箱に入れて日本の玄関先に送られます。また、日本の銀行に提示する際に、疑問を抱かずにポンドを円に変換するのに役立つ文書もあります。
箱は運送会社からお届けします。

日本には、このお金を寄付する特定の団体はなく、家族と呼べるのはあなただけであり、私の唯一の希望は、私が息を引き取る前にこのプロジェクトの成功を目撃することであることを理解していただきたいと思います。

箱が日本の玄関先に届けられた後、このお金を寄付する信頼できる組織を探すことができれば幸せです。 私の夫は、箱を日本に外交的に発送することを委託しました。

私と亡き夫は、貧しいホームレスの子供たちや、幼い頃に両親を亡くした子供たちを助けるために常に最善を尽くしてきました。

ここアイルランドと中国にいる夫の家族が私と亡き夫の資金を慈善団体に寄付することを拒否したので、私には選択肢がありませんでした。 彼らは自分たちの利己的な利益のためにそれを独り占めしたかったからです

亡くなった夫の家族は私を二度も殺す計画を立てましたが、失敗しました。 なぜなら、私はいつも貧しい子供たちを助けたいと思っていたからです。また、食べ物や住む場所に困っている高齢者たちも助けたいと思っていたからです。 私はほとんどの場合、テレビを見たり新聞を読んだりして、幼い子供たちが苦しんでいるのを見てよく泣きます。

話のフェーズが明らかに変わっていました。筆者が困惑していると、なんとTamikoさんがログインして、オンラインチャットを始めました。

Tamiko 11月11日
おはようございます

筆者
おはようございます。

それから沈黙。しばらくして、Tamikoさんは前回の返信への回答を促しました。

Tamiko
考えたいのはわかりますが、医療専門家によると、私に残された時間はそれほど多くないということを覚えておいてください。 できるだけ早く返信をお待ちしています
また、安全上の理由から、これはあなたと私だけの秘密にしておいてください。 セキュリティ上の理由から、ボックスについては誰にも話さないでください
わかりますか?

あなたがこのプロジェクトに参加するまで待って欲しいなら、そうします。
私の健康危機のため、自分では何もできず、余命いくばくもありませんが、皆さんのご協力があればこのプロジェクトは達成できると信じています。 私は今日まで8年4ヶ月入院していました。 そして医師の診断によれば、私の余命はあと数か月だという。 もしこのプロジェクトを完遂せずに死んでしまったら、この最後の瞬間は私にとってとても辛いことになるでしょう。 そしてそのお金は警備会社が保管することになります。 誰かがお金を請求するかもしれませんが、私はそれが起こってほしくないです。

筆者
ごめんなさい。
話がよく呑み込めません。疑問点を書き出してみました。

  1. お金は証券会社に預けたとおっしゃっていましたが、なぜ、警備会社にあるのですか?
  2. 日本の玄関先とは、どこですか?
  3. 日本には、寄付する特定の団体がないのであれば、円に変換するのは無駄であり、ポンドのまま、寄付されるのがよいのではありませんか?
  4. 具体的に、私に何をしてほしいのでしょうか?

Tamiko
とても大金だったので、夫は証券会社に預けることにしました。お金はポンドで寄付できますが、箱の中には銀行で質問することなくポンドを円に両替できる書類も入っています。 , まず、配送会社から箱を受け取るのを手伝ってほしいのですが、箱が届きましたら、次に何をすればよいかをお伝えします。

筆者
その箱はどこに届くのですか?

Tamiko
私が前に言ったように、運送会社の指示に従えば、箱は日本のあなたの玄関先に配達されます
分かったか?

筆者
あなたは私の住所をご存じなんですか?

Tamiko
あなたが箱を受け取る前に、私はまずあなたをその箱の唯一の受益者として登録し、それからあなたが現在賢治タミコ夫人のマリ委託品箱の唯一の受益者であることを記載した委任状を配送会社に送ります。

上記の詳細が必要になります

フルネーム:
現在の住宅の住所:
年齢:
プライベート電話番号:
Eメール :

ここで、筆者は話を打ち切ってログアウトしました。もう午前10:30を過ぎていました。

このやり取りの間、筆者は相手のミスに気付きました。
日本時間の午前9:30~10:30は、9時間時差のあるダブリンでは深夜の1:30~2:30です。
「おはようございます」
などと時差を全く意識せずに話しかけてくるのはおかしいし、入院中の末期がんの患者が夜中に1時間もチャットするのも不合理です。

なぜ、証券会社が警備会社に代わってしまったのか。
筆者は、証券会社といったTamikoさんと警備会社といったTamikoさんは別人ではないかと推測しています。
証券会社のTamikoさんをオペレーターとすると、警備会社のTamikoさんは指示役で、10日の時点であと一押しで、筆者を落とせそうと踏んだのでしょう。指示役がオペレータ-に変わって、ケリを付けようとしたのではないか。だから、それまで使っていたマニュアルから離れてしまった --と思われます。

さらに、オンラインチャットも偶然ではないでしょう。
フェイスブックには、ログインすると友達がログインしているかどうかわかる機能があります。
なので、筆者がログインするのを待ち構えていて、リアルタイムのチャットで筆者を追い込んでいこうと目論んでいたと思われます。

彼らの狙いは、寄付金の仲介だと思わせて、個人情報を詐取することであるのは間違いないでしょう。
個人情報があれば、偽アカウントが作れます。
Tamiko Mari も同じような手口で入手した偽アカウントかもしれません。

フェイスブック詐欺に遭わないために

フェイスブック詐欺には、マニュアルがあります。
今回の場合、「海外在住」「日本人女性」「咽頭がん」というキャラが「慈善団体に寄付するのを手伝って」と持ち掛けてくるパターン。
マニュアルを研究し、パターンに当てはまるものを排除するというのも、一つの手かもしれません。
ただ、そのやり方では、マニュアルが更新されて、別パターンになった場合、対応できません。

知らない人の友達申請はすべて拒絶すべきという人がいますが、筆者はそれは勧めません。フェイスブックは交流を広げるのが目的なのだから、「知らない人だから」「日本語がヘンだから」という理由で人を拒絶していたら、人生を豊かにする出会いがなくなり、簡単に騙される人になってしまいます。

まず、人を信じて話を聞くこと。相手の話を論理的に整理しながら、わからないことは直接問い、理解を深めること。その過程で、不自然な点や矛盾を解消できないのであれば、その人を疑い始めればいいのです。
友だちを疑ってはいけない、という考えは間違っています。友だちだろうが、親だろうが、根拠があれば疑い、少なくても自分は利用されないように自衛することは必要です。

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