All rights reserved. ってヘン

著作権表示にAll rights reserved.と付けるのはおかしい。

日本語のWebサイトでよく見かける All rights reserved. もっともらしく著作権表記のように書かれていますが、じつは専門家からも異論があったりします。何も考えずに、猿真似でヘンな表記をする前に、ちょっと考えてみませんか。

All rights reserved. は、日本語で「すべての権利を留保しています。」となります。
この場合、「留保」は法律用語です。ですから、日常的に使う「権利があるのだけれど、この場で使わず、一時的に保留します。」という意味ではなく、「法律的に規定された権利を全部有しています。」という意味になります。

著作権のエキスパートである行政書士の遠藤正樹さんによると、All rights reserved. が始まったのは、1910年のブエノスアイレス条約以降だそうです。つまり、ブエノスアイリス条約で、自国以外の加盟国において著作権による保護を受けるためには、権利を留保するという宣言をするために、頭に、© と最初の発行年をつけて、

© 2021 Author's name. All rights reserved.

とやるようになったというわけです。

しかし、そもそも日本はブエノスアイリス条約に加盟していませんし、現在、この条約が有効な国はほとんどありません。ですから、All rights reserved. なんて気取ってみても、法的に意味がありません。
むしろ、日本は「わざわざ権利表示しなくても保護される(=無方式主義)」ベルヌ条約に加盟しているため、著作権表示はなくてもよいのです。
しかしそれは、あくまでもベルヌ条約加盟国内での話。非加盟国で自国の著作物の権利を守るには、万国著作権条約に基づき、何らかの著作権表示が必要でした。そしてその非加盟国として念頭にあったのはアメリカでした。そのアメリカも1989年にやっと、ベルヌ条約に加盟しました。
だからもう、金輪際、All rights reserved と縁を切ってもいいのです。

遠藤正樹 そろそろ著作権表示でAll rights reservedを書かないようにするという提案

著作権表示するメリット

All rights reserved. はともかくとして、Webサイトには著作権表示はあったほうがいいと筆者も考えます。たとえば、

© 2023 有限会社デジタルエイド

みたいに。
法律家の田中靖子さんは、著作権表示で得られるメリットとして、次の5点を挙げています。

  1. 著作者として推定されることができる
  2. 著作権の期限が長くなる
  3. 裁判で故意の主張をする際に有利となる
  4. ベルヌ条約に加盟していない国でも著作権を主張することができる
  5. 転載される場合に著作者として表示してもらうことができる

田中靖子 著作権表示、コレが正解!「©」や「All Rights Reserved」正しい表記と意味全解説

All rights reserved. は厚かましい

著作権を表示するメリットがあるのなら、Webサイトの著作権表示に All rights reserved. を入れてもいいじゃないか、と思われるかもしれません。
実務として Webサイト制作を行う身としては、 All rights reserved. は正確さに欠くと思います。
Webサイトはさまざまな技術や著作物によって成り立っています。このサイトだって、WordPressという偉大な発明によってパワーアップされています。WordPressを使っていなくても、何らかのWebアプリケーションやフレームワークを使っていたり、広告表示をしていたり、あるいは、素材集の画像を使っているとか、ふつうにしているはずです。
著作権フリーとなっている素材も、著作物の使用料が無料だといっているのであって、けして著作者が著作権を放棄しているわけではありません。
つまりすべての著作権をWebサイトの主催者が所有しているわけではない -- これが大半のWebサイトの実態です。それを、All rights reserved. などというのは、ヘンどころか、厚かましいとさえいえます。

「無断転載禁止」もホントは不要

Webサイトだけでなく、DVDやCDなどの配布物でよく見かける定番表現に「無断転載禁止」というのがあります。
自分の著作物の権利を守るためならば、この文言は不要です。上記に書いたように、日本の著作権は無方式主義なので、何も書かなくても、原則、著作物の無断転載は禁止されています。

著作権法 第32条第2項では、無断転載禁止の著作物が自由に使える範囲として、次のように規定しています。

国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。e-Gov法令検索 著作権法

ざっくりいえば、著作物は原則無断転載禁止だけれど、例外もある。例外とは、行政が一般に周知を目的に作成・公表した著作で、公益に寄与するのなら行政の著作物を無断で転載してもよい。ただし、「転載禁止」と書いてあったら認められない。

ですから、行政機関でもないのに「無断転載禁止」と書く必要はないのです。
とはいえ、人気まんがやアニメの海賊サイトが横行する場合、「無断転載禁止」と書いて、利用者の注意を喚起する必要はあるんでしょうけれど。

まとめ

All rights reserved. というのは、100年以上前の、日本が加盟もしていないブエノスアイレス条約で始まったことで、アメリカをはじめ大多数の国が「わざわざ権利表示しなくても保護される(=無方式主義)」ベルヌ条約に加盟している現在、もはや法的な意味はありません。
著作権表示をするのであれば、All rights reserved. を除いた © 公開年, 著作権者 というスタイルでシンプルにするほうが好ましいといえます。